大森 ランチの原理
多数のガン患者さんがPを使うような調査に協力したのは、すでに手術が終わっていることと、転移がないと診断された安心感からではないかと思います。
しかも、化学療法剤に強い副作用があることもわかってきたころですから、本物のクスリもPも5十歩百歩ではないかと考えたのかもしれません。
5年間の観察が終わった後、改めて全員でくじ引きを行い、もう一度、グループを分け直しました。
そのうえで、もう5年、観察を続けるという計画を立てました。
これは、クスリの服用が短期間の場合と長期間の場合で、違いがあるかどうかを調べるのが目的です。
9年後に中間のまとめを行ったところ、5年しかクスリを飲まなかったほうが9年間続けたグループに比べて寿命が長くなっていました。
つまり、5年以内であればクスリは有効ですが、それ以上長く飲み続けると、むしろ逆効果ということがわかったのです。
この差はあまりに明らかでしたから、研究者たちは、倫理上このまま続けるわけにはいかないと判断し、1年を残して調査を打ち切りにしました。
さて、この調査結果の解釈はいささか微妙です。
まず、5年を境にクスリの効果が逆転するというのは、よく考えると怖い話です。
クスリをやめる時期を絶えず心配していなければなりませんし、うっかり時期を逸すると、寿命が短くなってしまうのです。
また、全員が手術を受けていますから、その影響のほうがクスリよりはるかに強く結果に作用しているはずです。
手術を受けずに、クスリだけ飲むとどうなるのでしょうか。
結果は、まったく違ったものになるかもしれません。
さらに、転移がない人々に手術をしてガンを取り去ったのですから、クスリを飲んでも飲まなくても治ってしまう人が多いに決まっています。
理屈で考えれば、本物のクスリを飲んだグループとPグループで、差はできないはずです。
したがって、このデータはクスリの本当の効果を表したものではないような気もするのです。
タモキシフェンについても、多数の調査結果をまとめ、多数決方式で集計を行ったレポートがあります。
対象は42件で、どの調査もプラセポーグループとの比較を行っています。
クスリの服用期間は6ヵ月から5年です。
このクスリの場合は規模の大きな調査が多く、1000人以上を対象としたものが6件含まれていました。
集計の結果、有効性が認められたものが34件、有効性が認められなかったものが8件でした。
転移があってもなくてもともに有効でしたし、50歳以上の人も50歳以下の人についても有効という結論でした。
これは、アメリカでの大規模調査の結果と同じです。
乳ガンになってしまった人は、5年以内に限って、このクスリを飲んだほうが長生きできるという結論になります。
乳ガンの転移だけを抑えるという特殊な作用を持ったクスリもあります。
クロドロネートといいますが、最近話題になり、いくつかの調査が行われ始めています。
たとえば、1998年にドイツの研究者たちから発表された調査では、300人の患者さんを2つのグループに分けて、3年後の総死亡を集計しました。
患者さんは、すべて乳ガンの手術を受けた後、いろいろなクスリによる治療をしている人たちです。
クスリの種類に違いが出ないように注意し、患者さんを150人ずつのグループに分けました。
その一方にクロドロネートを一緒に飲んでもらったのです。
3年後、このクスリを飲んだ人たちのグループで、総死亡が圧倒的に少なくなっていることがわかりました。
ところが、このクスリを調べた他の調査のほとんどが、転移を抑える作用はあっても総死亡は減らないという、逆の結果を出しているのです。
このクスリを使ったほうが得かどうかは、結局まだはっきりしません。
治療の基本は手術と放射線手術と放射線は、どのガンでも共通の治療法です。
もっとも気になるのは、やはり手術の有効性ですが、さすがに手術をしたグループとしないグループに分けた調査はありません。
乳房全体や胸の筋肉まで取ってしまう方法と悪いところだけを部分的に切り取る方法を比べた調査は、いくつかあります。
代表的なレポートを10件ほど調べてみますと、寿命ではまったく違いがないということです。
つまり、乳房から胸の筋肉まで広く取ってしまうような手術は意味がないということです。
手術をまったく受けないとどうなるのかはわかりませんが、ガンであっても大げさな手術はしないほうがよいということははっきりしました。
この点だけを取り上げてみても、今までの医学の常識とはずいぶん違います。
さて、放射線治療については、手術の前後でこれを行った場合とそうでない場合の違いがいろいろ調べられています。
多数決方式で分析したレポートもありますから、それからまずみていきたいと思います。
36件の調査レポートを集計したもので、さまざまな分析がなされています。
どのレポー卜も初期の乳ガンでリンパ節への転移がなかった人たちを調査対象にしたものです。
が普通です。
したがって、リンパ節に転移があるかどうかが運命の大きな分かれ道になると考えられています。
医学の常識では、「考えられている」のではなく、「絶対にそうだ」ということになっています。
しかし、話がここまできますと、疑心暗鬼になってしまいます。
すべての医学の常識は間違っているかもしれない、という前提で物事を考えたほうがよさそうです。
まず、手術と放射線治療を一緒に受けたグループと、手術だけのグループを比較してみます。
36件の調査の中で、前者の総死亡のほうが多かったという結論を出したものが半分、後者のほうが多かったとしたものが半分で、引き分けというところでした。
36件の調査を全部合わせると、協力者の総数は2万人近くになります。
その人たち全体で10年間の総死亡を集計したところ、放射線療法を受けたクループも受けなかったクループも、まったく違いが認められませんでした。
放射線療法を受けることによって乳ガンそのものによる死亡はたしかに減少しています。
しかし、薬物治療の場合と同じで、別の原因による死亡がかなり増えてしまうのです。
結局、多数の調査を平均してみると、放射線治療を行っても寿命は変わらないという結論になります。
放射線療法の効果は?その後、この結論をまっこうから否定する研究レポートが、1997年にカナダから出されました。
手術の際、リンパ節にガンの転移が見つかった約300人を15年間にわたって調べたものです。
3種類の抗ガン剤と放射線療法を一緒に行ったグループと、クスリだけのグループを分けて比較を行っています。
5年後、放射線治療を行ったほうが長生きできるという結果が出ました。
さらに15年目まで連続して観察が行われました。
その結果、放射線療法を行ったほうが長生きするという傾向は、15年間ずっと持続していることがわかりました。
このデータを発表した研究者たちは、このような結果になったことに対して、放射線療法の技術が10年くらいの間で格段に進歩したためではないかと‘分析しています。
今までの調査では無効であったとしても、これからは違うぞ、といっているのです。
さらに、進行した乳ガンだけを選んで放射線治療の効果を調べるという意欲的な調査も出てきました。
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